遺言の失敗事例
1 相続人が亡くなった場合のことを書いていなかった場合
第1条 遺言者は、遺言者の有する全ての預貯金債権を、遺言者の長男 〇〇(〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる。
第2条 遺言者は、遺言者の有する全ての不動産を、遺言者の次男 □□(□□年□□月□□日生)に相続させる。
これは、預金を長男、家を次男に相続するという簡単な内容の遺言です。
この遺言の問題点は、長男や次男が親より先に亡くなった場合に、遺言が一部無効になってしまう点です。
例えば、親より先に長男が死亡した場合、第1条については、無効になってしまうため、当然に預金について長男の子供が相続することができないのです。
預金を引き出すためには、長男の家族と次男で話し合いを行い、遺産分割協議書を作成する必要が出てきてしまいます。
そのため、次男が預金の取分を請求してくるなどして、協議書に判子を押すことを拒んだ場合、最悪のケースでは、家庭裁判所で遺産分割調停を行わなければいけなくなってしまいます。
このようなケースでは、次のような文言を追加しておくのがよいでしょう。
第3条 遺言者は、前記 長男 〇〇 が、遺言者に先立って、又は遺言者と同時に死亡した場合には、第1条記載の前記 長男〇〇 に相続させるとした財産については、前記 長男 〇〇 の長女 △△(△△年△△月△△日生)に相続させる。
2 執行者をつけずに孫に相続してしまったケース
第1条 遺言者は、遺言者名義の不動産、預貯金債権及び有価証券を含む、遺言者の有する不動産、動産、手許現金、預貯金、有価証券、指名債権、死亡退職金その他一切の財産を、遺言者の孫 D(〇〇年〇〇月〇〇日生)に包括して遺贈する。
会社経営者だったAは、今は現役を退き、長男のBに社長の座を譲っています。
次男のCは、別の会社に勤務をしています。
ゆくゆくは、長男Bの子供である孫のDに次期社長として会社を継いでもらいたいと思っています。
そこで、Cには生前贈与をしておき、Aが亡くなったときは、会社のビルや株式など全ての財産を孫Dに相続をしてしまおうと考えました。
この遺言は、第1条そのものに問題はありません。
何が問題かというと、遺言執行者をつけておかないと、会社のビルなど不動産の名義変更などができなくなることです。
登記原因が「相続」となる場合、一人で名義変更を行うことができます。
しかし、登記原因が「遺贈」となると、名義変更をするには、相続人全員が判子を押して手続きを行うか、遺言執行者が手続きを行わなければいけません。
孫Dが受け取る場合、子供が直接受け取る場合とは異なり、登記原因が「遺贈」となってしまい、孫Dだけでは名義変更ができません。
仮に、孫Dが会社を継ぐことに納得していない次男Cが反対をしてくると厄介です。
このようなケースは、次のような文言を追加する必要があります。
第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、前遺言者の孫Dを指定する。
2 遺言者は、遺言執行者に対し、他の相続人の同意を必要としないで、この遺言に基づく不動産の登記手続、預貯金の名義変更・払戻し・解約、有価証券の名義書換・売却、遺言者の権利に属する金融機関の貸金庫の開扉及び内容物引取り、その他この遺言の内容を実現するために必要とされる一切の行為をする権限を与える。なお、遺言執行者は、必要に応じて他の者にその任務の全部又は一部を行わせることができる。
公正証書遺言を作成する際の流れ 遺言とエンディングノートの作り方や効力の違い